何処かで見たことのある道。
丸石を積んだ土台の竹垣根。
ここはボクの育った鵠沼海岸だ。
見覚えのある家から、ひとりの男性が…チビの兄貴だ。
山登りに行くらしい、そんな服装なのだ。
一瞬、逃げようと躊躇ったが間に合わないで、すれ違う。
よく考えたら、先方はボクの事を知らないはずだ。
もっとよく考えたら、チビには男の兄弟はいないのだった。
チビは4姉妹の次女なのだ。
そうすると、あの男性はチビの親父さんかも知れない。
チビの家の門を覗いて見る。
誰も居ないようなので、右手の松林に入る。
ここはボクの遊び場の一つだ。
松ぼっくりを拾い集めて、笹やぶに投げる。
車の轍がついた道をぶらぶらと歩く。
いつも歩いていた砂の道だ。
この先には雑草の匂いが立ち込める片瀬川の土手がある。
ボクの悲しい時の隠れ場所は、そこの草むらだ。
遠いあの日、チビと小学校の帰りに、いつも道草をくった場所だ。
あの時、なぜはっきりと言わなかったのか・・・
無理だよ、あの時・・・ボクは10歳だもの。
(夢の中で妙に納得するボク。チビは隣の家の女の子だった。夢の中に彼女は登場してくれなかったけれど、浮かぶ面影は当時のままだ。)