江戸城お濠跡の堤の上から見える、緑がいっぱいのキャンパス。
母校の上智大学である。
イグナチオ教会も昔のままだ。
どうやらキャフェテラスの中らしいが、テーブルのない和室の大広間なのだ。
学生たちが、びっしりと並んでいる。
窓側は大きなベランダになっていて、鉄の柵がある。
後輩の髭を生やした作家の新井 満がホースの水で床を掃除している。
水をかけすぎて、向こう側は川のようになっているが、新井 満は気がつかないようだ。
彼はいつも、あまり周りが見えない性格なのだ。
広間の中央にステージがあり、これからボクの発表会があるのだ。
司会進行は、自民党総務会長の可愛いい野田聖子なのだった。
彼女に、これから河村シゲル先輩の講話があると紹介され、ボクは「SNSの時代に必要なのは、オウンドメディアである」
なんてテーマで話し始めた。
学生たちが私語をしたり、立ち話までする奴がいて、ボクは怒りだした。
ボクの怒りの矛先は、なぜだか可憐なシスターや口うるさいドイツ人の教授たちだ。
その時である。
突然、学生たちが立ちあがり、動き始めた。
そこへ、旅館のお手伝いの女性たちが来て、大きなマットや巨大な炬燵をセットし始めた。
炬燵が大きすぎて、大広間が塞がってしまった。
けれどボクは、皆で暖まるコミュニケーションも必要だと、妙に納得しているのであった。
ふと見ると、新井 満がまだベランダで水撒きをしていた。
(母校などと偉そうに言うが、実はボクは一度退学になり、晴れて卒業させて貰ったのは、40年後。上智大学始まって以来の学生と言われていた。ボクの卒業にご尽力してくれたのが、野田聖子さんだったのだ。)