暗い待合室のような所に、阿久 悠さんと二人で座っている。
打ちっぱなしのコンクリートの壁、薬品の匂い…
嫌な空間だ。
病院かもしれない。
突然、阿久さんの鼻水がドバッと出て、止まらない。
ここにいてはまずいと思い、阿久さんを連れて映画を観に行くことにした。
ボクが車を運転して、阿久さんがいつものように助手席に座って、鼻をかんでいる。
しかし、この車は走りながら、茶碗の液体をこぼして走っているのだ。
時には、ボクがそれを飲みながら、走り続けている。
この液体が、この車のエネルギーらしい。
イチゴ味のする甘い液体だが、きっとこの中には抗生物質やステロイドも入っているのだろうと思う。
この赤い液体をこぼして走るのか、飲んで走るのか・・・
ハンドルを握りながら、考え込む。
突然、飲んでも車は走らないと、結論付けた。
頭がごちゃごちゃして、訳がわからない。
ふと見ると、大きな川沿いの道路を走っている。
草が青々と茂った橋が、道の左手に何本も架かっている。
でも、この橋は渡らないと決めて、大きな交差点を左折して高速に乗ることにした。
阿久 悠さんはいつもの、むっとした表情で前を見つめている。
鼻水は止まったようだ。
ボクの気持ちは、都心に向かっている。
テッシュペーパーを買わなくちゃ・・そんなことを考えていた。
(阿久 悠さんを7年間ほど看病したことがあるが、そんな日々の一片だろうか。
茶碗をこぼして走る車は、ボクの大好きだった大型のアメ車の連想なのかもしれない。フォード・ムスタングなど如雨露でガソリンを撒いて走っているようなものだったから(笑)。)