車で見たことのない風景の中を走っている。
沿道には畑もあり、森もあり、川もあり、山も見えるが、そのどれもが記憶にない。
小高い丘もあり、盛り土に金剛杖が差してある。
誰かが土葬されているのだろう。
そんな盛り土が無数に点在している。
その時、ここは中国の海南島かも知れないと思った。
やがてパーキングエリアがあり、そこは海のリゾートのような高層ホテルが林立している。
高層ホテルの足元は、貧民窟だ。
春を売る女性たちが、木陰にたむろしている。
貧しい恰好の子供たちが、無邪気に遊んでいる。
かんけり遊びのようだ。
ボクの携帯に着信が入った。
若い女性である。
欲子と言う名前だと言う。
よは、欲望の欲と書きますと言った。
「金利はなしにしてね」
と、彼女が言った。
「何の話?」
なんだか、ボクが作るテレビ番組の制作費を彼女が工面することになっていて、
ボクがその金を取りに来たと思ったらしい。
ボクは、そんな番組の事はすっかり忘れていた。
じゃ、ボクは何をしにこの欲望の街へきたのだろう?
西の方角に欲望の街があると、誰に聞いたのかさえ忘れて思いだせない。
だいたい、今、自分が何をしたいのかも分からない。
「仕方がないな。東へ戻ろう」
ボクは独りごとを言いながら、車に乗り込んだ。
(なんじゃ、このストーリー・・・。気持ちが前に進まない時、西へ行ってみるのは、ボクの秘策であるが、何も今日、そんな夢を見ることもないだろう、今日はボクの誕生日なのに・・・(笑))