なんだか会議室の机を取っ払ったような空間だ。
ピアノがあって、横森良三さんがいるから「スター誕生」の予選会だな。
ボクがその進行役なのだ。
今回は8千名も応募が来てるので、ひとりの審査時間は15秒と決めた。
横森さんもイントロなしの、メロディから入るが、ひとり4小節しかない。
これでガンガン進めて行くのだが、審査員のプロデューサーもディレクターも聞いちゃいない。
そう、こんな場合は歌など聞いても分からない。
音程や節回しなど、審査に関係ない。
ポイントは顔とスタイル・・・
そこにタレント性やらスター性を見つけるのが仕事なのだ。
今日は15名を選び出す予定だから、結構忙しい。
応募した出場者は、牧場の牛のように並んで行進している。
審査員の前を通った時が勝負なのだ。
ボクも審査員なのだが、ボクの選ぶポイントは手の置き場だ。
歌手も役者もそうだけれど、演技力は手の置き場で決まる。
今日は不作だ。
出場者の中には、若者だけではなく、老人たちも沢山いる。
そんな時代なんだなぁと、独り感慨にふけっている。
ところで、ボクたちはオーディションで選んで何をするんだっけ?
どうにも思い出せない。
スタタンは終わっちゃったし…あれっ?弱ったな。
審査はまだ、楽しそうに続いている。
ボクは、壁際を伝って、ドアーからそっと逃げ出した。
「どうしようかな・・・」
いつもの口癖で目が覚めた。
(数10年も前のスター誕生の予選会だ。実際には1日の審査に800人位来た。横森さんはアコーディオンではなく、ピアノだった。審査時間はひとり20秒程度。だからボクは出場者の手のやり場だけ見ていた。ドラマでもトークでも、駄目な奴は手の演技がへたくそだよ。見ててごらんなさい、面白いから・・・)