彼は誰れ時の、浅い眠りの中で一つの言葉が・・・
情景がいつまでも頭を巡っている。
サナトリュームの恋。
あの夏の日・・・
高原のカラ松林の中にたたずむ白衣の乙女・・・
爽やかに吹き抜ける風
軽い透明な空気に森林の香りが甘い
結核療養所…サナトリュームの看護婦さんは、いつも天使だった。
結核患者の男と、白衣の天使の恋・・・。
それは、高校生のボクのあこがれ・・・
出来ることなら、結核になって、あの高原のサナトリュームへ行きたかった。
結核・・・死と言う環境の中でなら、命のせつなさや、しみじみとした幸せや、
柔らかな思いやりや、守り抜く強さを感じられるから・・・。
毎日、人の死を見つめているから、サナトリュームの人々は、いのちの育みを実感して、その大切さを知るのだ。
痛みや喜びを実感して、人間らしい五感を感じるのだ。
五感を総動員して、人を愛するのだ。
恋をするのだ。
サナトリューム・・・
サナトリューム・・・
この言葉が頭にこびり付いたまま、浅い眠りがほどけた。
(なんだか、簡単に人の命を操作するような事件が続いている。人を愛し、恋することの不器用な人たちが多い。そんなことを想いながら、眠りに就いたからなのだろうか・・・夜明けの始まりの頃、浅い夢とも現とも分からないまま、浮かんだ言葉たちを記してみた。)