小さな砂浜まで、丘陵が迫っていて・・・
ボクは、その急な石ころの混ざった道を降りている。
ふと、何かの気配を感じて、右上を振り返ると・・・
突き出した岩の上に、男が立っている。
手には矢を番えた弓を持っているではないか!
更に気配で、左上を見ると・・・
そこにも勇猛そうな男が弓に矢を番えている。
更に、驚くボクの視線の先の男どもが、増殖している。
十数人の男どもが弓矢を持っているのだ。
彼らは、想い思いの方角を向いている。
それぞれの獲物を探しているのだろう。
ボクは再び、海に向かって歩き始めた。
そして、ボクは自分が弓矢を持っている事に気が付いた。
そうか、人はみんな、こうして心の中に弓矢を持っているんだな。
そして、普段は別々の方向を向いている人々の矢が、何かの拍子で、
矢先がひとりに集中してしまうことがあるんだ。
今、この社会に蔓延しているイジメの構図だ。
自分に、矢が向くことなんか誰も気が付かない。
自分が、カモになるなんて誰も思わない。
その時、ボクは背筋に悪寒を感じた。
そっと、振り返った!
えっー!
嘘だろぅ!
背後の男どもの矢先が、一斉にボクに向けられているのだ。
ボクは、坂道を転がるように駆け降りた。
ひゅーひゅーと、矢が空気を切り裂く音が聞こえる。
ボクは、そのまま一気に砂浜から海に飛び込んだ。
ボクの故郷の海だ。
ここなら矢も届かない。
ボクは海中に漂いながら、考えた。
誰がカモだか判らない時は、自分がカモなんだと・・・。
(子供だけでなく、大人の社会にもあるいじめ、排他主義。自分に矢の先が向けられることを恐れて、何もしない、何も言わない社会になってはいないだろうか。
ここまで生きて来られたボクは、自らカモになっても良いと思えて来た。
それが、生かせて頂いている社会への御奉仕かも知れないから。)