河村シゲルの夢か現か日記

夢は自分自身で創る芸術作品、脚本・演出・セット・キャスティングなど全て1人で担当してます。「無意識の思考を意識に伝えようとしているのが夢」だと、あのフロイトが言っています。ボクは最近、夢を毎日見ています。だからもう一人の自分探しの旅のつもりで夢日記を書き続けることにしました。

この匂い・・・カズさんの死んだ海・・・

伊豆半島が伊東の辺りまで、くっきりと見えている。

小田原の街なみの上空には冠雪の富士山が、天空に届いている。

箱根の連山から、左へパーンすると天城の山々が香るように美しい。

正面の海面の彼方には、大島から利島、式根島あたりまでの島影も望める。

相模湾では、年に3回ほどしかない絶景・・・

驚くほど見事な風景の中にボクはいる。

この海で育ったボクは、秋のこの風景が大好きだ。

潮風の中に、フジツボとボラのなむら(群れ)の匂いがした。

辺りを見回すと、茅ヶ崎港の沖合にいる。

烏帽子岩の先、3本ある定置網の真ん中に舫っている。

伝馬船で掴って、鯛を釣っているのだ。

船の艫(とも)にはカズさんがいる。

爺さんで、少し眼が悪いけれどボクと仲の良い漁師だ。

ボクは舳(みよし)で胡坐をかき、手バネ竿でシャクリを繰り返す。

餌はサイマキだ。

カズさんは、手釣りのオトシ釣りだ。

いつ来るとも知れない鯛のアタリ・・・

それを待つ、無言の男が二人・・・

頭の中にはなにもない。

全くの空白なのだ。

こんな刹那がボクは大好きで、この海に来る。

その時、気が付いた。

カズさんは確か、死んだはずだ。

ある朝、ひとりで漁に出て伝馬船の上で眠るように死んでいたと聞いた。

驚いて、艫を見るとカズさんはいなかった。

そうだよな・・・

さっきから、ボクの手バネの竿に小さな魚信が来る・・・

そうだよな・・・

カズさんが、海の中でいたずらしてんだよね。

そうだよな・・・。

(今頃の相模の海はきっとこんな感じだろう。カズさんが死んでから茅ケ崎の鯛釣りはやっていない。鯛を釣るより、カズさんと伝馬船で沖に漂うことが楽しかったのだ。そのカズさんに会えた。夢の想念は、こうして時空を自在に行きつ戻りつ出来るのだ。)