横浜の山下公園にいる。
ここの埠頭から港内の匂いを嗅ぐのが好きだ。
油と鉄さびと潮の匂い・・・
子供の頃のアイスキャンディの匂い・・・
匂いが誘ってくれる想い出が好きだ。
そして、この山下公園が好きだ。
なぜだかは、分かっている。
この山下公園は、関東大震災で崩壊した家の瓦礫を埋め立てたのだ。
そして、ボクの家もこの瓦礫の中にある。
当時、ボクはまだ生れてはいないが、祖父や父母の思い出が埋まっているのだ。
家は、山下公園の近くにあったそうだ。
そして今、この世には父母も兄弟も居ない。
男の晩節を考えている。
そろそろ、そんな事に思い巡らす時なのか・・・
ボクの周囲に夜風が来て、額の汗をそっとぬぐう・・・
青と赤・・・
船の識別灯が瞬いている。
ボクの左手が母の手に見える・
そう言えば、母も左利きだった。
危ない橋と分かって渡って来た。
ウダツなんか上がらなくていいと逆らってきた。
日常生活の重力に囚われないで生きている。
金より時間を大事にしたい。
無駄に過ごした歳月が、胸に押し寄せてくる。
命の苦悩や陶酔を繰り返した。
波止場に暗闇は続いているが・・・
人生、一寸先は、まだ光だと・・・
ボクは信じているのだ。
男の美学・・・
そろそろ始めてみようかと・・・
(夢の中で、人生の終局を想う歳なんだね。でも、現実にはまだ、やりたいことが山ほどもあるし、人生のフィナーレの台本はまだ書きたくない。起承転結・・・ボクの人生は今、転なのだ。一番面白くなるシーンなのだ。)