喉が渇いている。
砂漠を彷徨う放浪者のように、オアシスを探している。
前方に、煌煌と眩い明りを放つ自動販売機をみつけた。
しかし、ボクは無視して前を通り過ぎる。
ボクは自動販売機が嫌いなのだ。
自動販売機で買う時の、あの屈辱感・・・
それなら餓死を望む。
こんな時に限って、自動販売機が何百台も並んでいる。
おーマイゴッド!
ボクは駅の券売機も嫌いだ。
ついでに、自動改札機もだ。
まだあるぞ・・・
ビンの蓋も嫌いだ。
ネジなど見たくもない。
洋服のチャックも許せない。
ハサミも、包丁も、ナイフとフォークも、ロープの結びも嫌いだ。
スーツやジャケットの胸のポケットなど、人間差別の極みだ。
そう、すべて右利きの人間用に作られているのだ。
左利きのボクが、どれほど毎日辛い、悲しい、せつない日々を過ごしているか・・・
これはみんな、日本古来のものではなく、外国からもたらされた文明だ。
つまり、諸外国の人間は、本来、人間に優しくないのだ!
と、ボクは断ずる。
多様性の時代だ。
Diversityだ。
革命を起こそう。
世の中の道具類を、すべて左利きようにしちゃうのだ。
これは凄い事になる。
男のトイレなど、ズボンのチャックが開けられないで、みんなが七転八倒している。
駅の券売機と自動改札機は、なかなか乗車券が操作できずに人間の大渋滞だ。
ネジが開かない、締められないから建設現場も遅れが続出だ。
包丁やハサミが切れない。
あっちこっちで、みんなが大慌てだ。
騒乱状態になっている。
これで左利きの辛さを、分かってくれるだろう。
これは、世界的革命になる。
ああ、考えただけでもすっきりした。
ボクは、自分の笑い声で眼が覚めた。
(夢から覚めて再認識したけれど、日本古来の道具は右利き、左利きの区別がほとんどない。あるのは全て外国から伝わった文明の利器ばかりだ。日本の道具は、人間に優しい。あらためて日本人の素晴らしさを確認できたな。)