薄暮の空に、不気味な雲が流れている。
見上げると、小高い崖の上に立つ人影・・・
ボクの目がズームアップする。
それは亜麻色のロングヘアーの乙女だった。
彼女の小さな唇がひらいた。
「いつかは死ぬ(死の必然性)
いつ死ぬかわからない(死の偶然性)
あなたがどちらを選ぼうとも・・・
その死を想う時、世界は美しく見えるのです。
今の命が愛おしいのです」
言い終わるや否や、彼女の身体がリングのように反転した。
現れたのは、形相凄まじき老婆だった。
彼女は陰陽師だった。
「陰陽の正しき鎮魂の作法・・・
それは、悪霊と対峙せず悪霊と折り合いを付けながら共存することじゃ」
そうか、そうなのか・・・
悪霊を病気と置き換えれば、この老婆のお告げも分かる。
無限にあると、ボクが思い込んでいる時間と・・・
死霊からだまし取っている、この時間とでは・・・
時間の密度も重さも厚みも、違う。
残された時間への、かけがえのなさが違う。
いつ死ぬかは、定かには分からないが、残された時間を愛おしく想おう。
そうすれば、世界は美しく見える筈だから・・・
崖を見上げると・・・
陰陽師は、風と共に立ち去っていた。
(人間は生れた時から、すでに病気をいくつも抱えている。生きると言うことは、その病気と折り合いをつけること・・・作家の五木寛之さんの口癖だ。命を大切にするコツかも知れないね。はて?ボクの病気はなんだろう?」