ボクは宇宙船のようなロケットで旅をしている。
ボクの宇宙は、ボクの身体の中だ。
ボクの宇宙船は、激流に突っ込んで行った。
真っ赤な河の流れ・・・
ここは動脈だ。
いったい、何処まで流されるのだろう・・・
流れがせせらぎになり、淀みに落ち着いた。
宇宙船の窓から外を見る。
二重の螺旋、そこにテロメマがびっしりと着いている。
そうだ、これがボクのDNA・・・
ボクの遺伝子なのか・・・
テロメアは短く激しく、細胞の分裂を繰り返す。
組織が大きく成長する。
しかし、50回程の分裂をすると、ボクの組織は死滅する。
これが細胞の老化という現象なんだ。
この老化現象で、組織は常に新しく入れ替わる。
その時である!
ボクの遺伝子に何かが突進して、入り込んで来た。
テロメラーゼだ!
こいつは老化の体内時計を巻き戻す酵素の軍隊だ。
こいつこそ、人間が求めて止まない不老不死の媚薬なのだ。
古来、人間は歴史上、こいつを求めて理不尽な悪事を繰り返してきた。
特に権力を握ったものは、必ず最後にこの不老不死の媚薬を求めて来た。
しかし、神はそれを許さない。
医学がどれほど進歩しようと、このテロメラーゼが作用して不老不死になれる細胞は、がん細胞だけなのだ。
この細胞だけは、永遠に分裂を繰り返す。
生物の敵である。
しかし、こいつはまた、自分自身でもあるのだ。
がん戦争の困難さはここにある。
でも、ボクは闘う。
医学でなく、科学で闘う。
ボクは宇宙船のスロットルレバーを、思い切り引いた・・・。
(おお、将にミクロの決死圏だ。医学に科学を応用する・・・やがて、そんな時代が来るのだろう。これはまだ、ボクの空想に過ぎないが、企画としては、なかなか面白いね。映画のキャプションとして創っておこうかな。)