無人の美術館の中のようだ。
出光美術館のように、小ぢんまりとした気風がある。
小さな裸電球に照らされた空間・・・
展示されている絵画は、全て女性が描かれている。
宇野千代の小説から出て来たような和服の女は、山本陽子に似ている。
隣の額縁からは、嵯峨三智子似の妖艶な女が、ボクを見つめている。
どちらも、恋多き女・・・
男の世話を焼くことが好きな女・・・
結婚などは考えず、素敵な男たちから学んだものが・・・
心にあるから幸せな女たち・・・。
いつでも、獲物を狙い続ける女たち・・・。
しかし、どうやらボクが探している女性ではない。
その時である。
突然、誰かに呼ばれたような気がした。
無人の美術館に人の気配はない。
でも、確かに呼ばれている。
ふと、振り返ると・・・
そこに、一枚の絵が・・・
それは、小柄な老婆の顔が・・・
「ボクを呼びました・・・よね?」
絵の中の、老婆が頷いた。
「私の心、ひとつに包んでおくのが切なくて・・・」
「・・・思わず口に出たのでございます」
ボクと視線が合うと、その老婆はみるみる若い女に姿を変えた。
ボクは、彼女を知っている。
太田垣蓮月だ・・・。
幕末の世に、絶えず言い寄る男が絶えなかったと、言われた女・・・。
二度、夫を迎え、5人の子供が・・・
しかし、全員が早死・・・
蓮月は、世をはかなんで尼さんに・・・
しかし、男が次々と現れる・・・
遂に蓮月は、自らの歯を全て叩き割って、老婆の顔を造ったが・・・
85歳まで、男にもて続けたと言う。
絵画の中の女は、再び老婆になっていた。
もう二度と、ボクと視線を合わせることもなかった。
(夢はいいなぁ。あの幕末のもてもて女性、太田垣蓮月に出会えるなんて・・・。
あの美術館も良かったなぁ。出来たらまた、訪れて見たいものだ。今度はどんな絵が展示されているか、楽しみだ。ああ、早く寝たい、夢を見たいから…(笑))