いつか見た懐かしい砂地の道
卯の花の垣根の枝に黄金虫
真夏の匂いの中でボクは似せアカシアで作った木刀を振り下ろす
黄金虫は無残な恰好で潰れた
ボクは虫を殺して、ふと思う……
子供なら皆が持っている暴力性に戸惑居ながら……
そんな遠い日の想い出を道連れに森の中にいる。
真っ白なユリの大輪が魅惑の香りを流す
深紅のルージュをひらいて獲物を誘う名も知らぬ華
森の中にもエロスの誘惑はある
微かな木洩れ陽に両手を延ばすように散りそびれた哀れな紫陽花
その傍らを薄い光に絡みつつ弱弱しく飛ぶ三匹の黒い蜻蛉
森からにじみ出た湧水を集めた沼には緑色の蛇
何を狙うのか双眸がキラリと光る
その時だった
ボクの足元から二頭の蝶が交尾しながら飛び立った
二頭の蝶は卍ともつれ宙を転けつ転びつ森林に消えて行った
ボクの鼻先に甘美なエロスのかほりが纏わりついた。
(あの黄金虫以来、ボクは虫を殺せない。地面に無数の蟻を見つけると脚が停まってしまう。ハエやゴキブリは積極的に屋外へ逃がす(笑)
殺虫剤を使う人とは、きっと気持ちが合わないだろうと勝手に決めている。)