いつものように松林を抜け、草叢を掻き分けて崖の上に来た。
ここは、ボクがしばしば訪れる秘密の場所だ。
子供のころから、もう何回目だろうか・・・
崖の下には、高速道路のような河が流れている。
曲がりくねったその河には、いろいろなものが流れてくる。
今日は、悲しみに満ち満ちた女や男が流れている。
愛を失った人間たちが流れてくる。
この河に入ってしまったら、もうその愛に戻ることはない。
河口にたどり着くまでに、その愛は腐敗し、朽ち果てる。
淀みに浮かぶ、泡沫のような微かな愛の欠片も次の瞬間には流れに呑みこまれる。
河は無表情に流れ続ける。
人間たちは、阿鼻叫喚をじっと隠して流されてゆく。
他人の心なんか、分かるわけがない。
愛は分かりあった顔を作りあっている一幕の芝居・・・
人間一生は、孤独な苦しみの時間・・・
それでいい
それがいい
人生の美など、一度でいい
夕焼けだって、遠ざかるから美しい。
沈むから美しい。
その一瞬が美しいのだ。
こうして流されることも、また美学・・・
愛なんて、すぐに腐って朽ち果てる。
だって、生ものだから……
(夢の中にも、ボクが時々行く場所がある。この崖っぷちもそう。
下には高速道路のような河があって、毎回色々なものが流されてくる。
今朝は愛を失った人間たちだった。それを見つめるボクは何歳なのかと、
夢の中で考えていたっけ。夢の中の自分はいつも年齢不詳なんだよね(笑))