遠い夏の宵の浜辺に…
小さな黒い巾着のような魂が落ちていた
誰かの身体から解放された魂が…
「アタシは齧りかけのリンゴを残して死んで来たの。
それはそれで、良いんだけれど…
誰にも残すものなど何もないしね」
黒い巾着のような魂は饒舌だ
「残すものがないから遺書も書かなかったし…でもさ、
書き置くものはないけれど、心に何かが残っているのよね」
黒い巾着のような魂は、しゃべりをやめない
「ちょっと横丁を曲がるように、この世から立ち去ろうかなと…
だから、最後の言葉も用意しなかったの」
黒い巾着のような魂は、谷川俊太郎のような言葉を呟いた。
「タマシヒ」でも最後に読んだのかなと、思った。
「一番好きな人に伝えておきたかったかなぁ。今でも大好きよと…
先の世で、一番きれいな花をあなたの為につんでおくわと…」
黒い巾着のような魂は、林芙美子のような言葉も呟いた。
ボクもふと、好きな言葉を呟いてみた
黒い巾着のような魂の彼女に・・・
恋の至極は忍ぶ恋
一生忍んで想い死ぬ
恋死なん 後の煙に それと知れ
ついに漏らさぬ 中の心は
(これは武士道の心得、「葉隠 第七章」の大好きな名言だ。
あの、遠い夏の宵の浜辺は、江戸時代だったのだろうか?
時間と空間を自由自在に飛び回れる夢って奴はいいなぁ。
毎晩、眠るのが楽しみなボクなのだ(笑))