教会の中では結婚の儀式が行われている
それを、ボクは冷めた気分で見ている
あの新婦と新郎は、それが宿命のような穏やかな顔だ
でもなぁ…とボクは考えている
ここで、宿命論を持ちだして、ドストエフスキーの「悪霊」など語るつもりもない
宿命を因果関係に落着させるつもりもない
ただボクは、恋愛に宿命などないよ、と言いたいだけさ
ふたりは生れた時から赤い糸で結ばれていたなんて、思っていないだけだ
だいたい恋なんて概念は江戸時代前の日本にはなかった
源氏物語にも万葉集にも恋なんて言葉はない
恋愛なんて概念は、宗教的経典なのだ
結婚式なる陳腐な儀式を教会や神前でやるのはそのためだ
神の前で、恋愛が神に対する完璧な精神の愛だと誓う
アーティストなら恋愛なんて単なる肉体的な衝動だと考えているだろう
シュールな画家マティの「神聖なるもの」が全てを現わしている
赤い糸や宿命や運命なんて、すべて後付けで言い訳がつくものだ
バカバカしくなって教会の外へ出る
街の中を行く女と男の間には、黒く流れる川があった
それでいいと、ボクは安心している。
(ボクは結婚していない。陳腐な儀式や権力的な様式に馴染まないからだ。
でも人を愛する気持ちは強いと思っている。運命や宿命なんてものに支配される
人生がいやなだけだ。人生を後付けで論じたくないしね)