秋には珍しい南からの風
潮の匂いに誘われて鵠沼東急レストハウスでウイスキーのシングル
浜辺をぶらぶら歩くうちに砂山にいた
竹のヨシズもヒルガオもあのまんま
ボクは突然、砂山を掘りたい欲望に…
掘ってはいけない
掘る時ではない
と、思ったが既に掘った穴の中に目的のものを見つけている
ボクのジャックナイフは錆びていなかった
フォールディング式の飛び出しナイフ
ワンプッシュでパチーンと開く
船乗りが腰にぶら下げているシーナイフだ
ボクは小学生の時からナイフが好きだった
いや、生徒の全員が持っていたんだ
鉛筆を削る為に
でも、机も結構削って遊んだっけ
中学になると折りたたみの肥後守だった
そして、高校の時はジャックナイフになった
毎日、肌身離さず持ち歩いた
でも、ケンカの時はお互いに、ナイフを置いてから殴り合うのが暗黙だった
そして、高校を卒業する時にナイフを手放した
みんなそうした
大人になる為の儀式だった
ボクは大好きなジャックナイフを家の前の砂山に埋めた
そのジャックナイフをパチーンと開く
シルバーの刃先に夕日が映っている
まだまだ、ボクは一人前じゃないな
苦笑しながら、砂山に埋めた
(村上春樹がノーベル賞かもと思って、彼の「ハンティング・ナイフ」を寝酒代りにパラパラと…その影響がこれか?(笑) でも、ボクたちの世代はみんなナイフを持ち歩いていたな。それを止めろと言う無粋な大人もいなかったな。)