都会の雑踏の中で、時に素敵な女性に出会う
そんな時、その女性の名は、いつも文と言う
結髪に、うなじのきりりとした人だ
憂いを含んだ瞳には、いつも悲しみが残っている
ボクは文という女性が愛おしい
アンティークなインテリアのカフェ
話し相手もなく、ぽつんといる30歳前後と思われる人
凛々しく引いた眉毛は、艶やかな黒
いちずな性格なのか、鼻筋がすっと通っている
洗い髪を、一本簪できゅっとまとめた髪型
漆黒で艶のある数本の髪の束が、気の抜けた横顔にかかっている
将に彼女こそ、文だ
文はいつも、突然こうしてボクの前に現れる
ボクは文に出会うと身体が硬直してしまう
自分を食い殺すであろう獣を前に置いた羊のように…
そして、その一瞬の刹那を永遠たれと願う
その時こそ、恍惚なのだ
エロスの極みなのだ
宇宙の営みの停止を願いながら、そっと目を開けた先には
やはり、文はいなかった。
(人間には好きな名前があるものだ。ボクは文(ふみ)であるが、まだ生涯一度も
リアルには出会ったことがない。いつもいつも探している女なのかもしれない。
その人、文に出会うまでは、この世にとどまりたいな(笑))