上弦の月の蒼白い燭光に照らされた庭園の植草に
オリオン座流星群の無数の閃光が突き刺さる
その度に、奥の林間に浮き上がる人の姿…
闇夜に鴉の鳴き声
「やばい」
なんて言いながら嫁に行ったはずの、その女は
母の形見の料理本をそっと鞄に詰め込んでいる
「やばいよー」
と、はしゃいで彼に甘えていた、あの女は
気の強さを見せつけるような顔を作っている
「やばいやばい…」
今が幸せすぎて、幸せすぎるからこそ、この女は
この先の不幸せを想像して泣き叫んでいる
ここは、悲しみ女の吹き溜まり…
女はいつも、幸せとは限らない
女の一生は、いつも不安や不幸との背中合わせ
この庭園に佇む不幸な女たちの姿を
画家ならどう描く
監督ならどう映す
見えるものを、いくら精密に描いても駄作
ボクならどうする
どう文字にする
ボクなら、その被写体を心で受け留めるだろう
目は、創作のたいした役にはたたない
心で受け留め、その女性と恋をする
恋をするからこそ、他所者には見えないものが見える
さて、今夜の悲しみ女は誰にしようかな…
と、闇に目を凝らしたが、そこには誰も居やしない…
(ボクの心の中には「不埒な」生きものが住んでいる。不埒なこいつは悲しみ女に
恋をする癖がある。人にはあまり見せたくはないが、ボクはこの不埒なもう一人の自分が大好きなんだ。もっとも夢の中にしか出ては来ないのだけれどね(笑))