横浜の丘陵、庚台の実家の庭に立っている
足元には黄金町から伊勢佐木町
その先は元町から横浜の港
左は野毛の山
手前には東小学校
赤門のお寺も見える
目を閉じた
茄子の匂いがするから夏なのだろう
庭といっても一面の畑だ
いつも、ばあちゃんが木からもいでくれる茄子
ばあちゃんは茄子を手で千切ってボウに渡してくれる
そうだ、あの頃はボクと言えずボウと言っていた
3歳か4歳だったろう
ボウはばあちゃんの背中で茄子をかじった
それ以来、ボクは茄子が大好きなんだ
特に新鮮な茄子の香りが…
これがボクの記憶装置にある最年少の思い出だ
でも、その前が知りたい
もっと深く目を閉じる
真っ暗闇に巨大な飛行機の爆音
空襲を知らせる警報
眼下の町に立ち登る紅蓮の炎
綺麗だ
戦争がなんであるか知る由もない2歳のボウ
横浜の町に落とされる数千本の焼夷弾にはしゃいでいる
ボウを抱きかかえて防空壕に走る母にいやいやをしている
もっと見ていたいのだ
こんな幻影が浮かぶ
これは記憶だろうか、幻の創作だろうか…
ボウには分からない
(ボクが二歳の時、日本は戦争をしていた。毎日B29爆撃機による空襲があったと聞いている。ボクも時々自分のアーカイブス装置を巻き戻して見るが、これがリアルなのか
創作なのか本人にも分からない。茄子の香りは確かなのだが…)