なんだか見晴らしの良い丘の上のカフェ
ボクの前には、元渡世人のY田親分さん
彼にはやくざと言う名が似合わない
ましてや暴力団などとは程遠い
絵にかいたような渡世人
任侠の男前
かつては都内の大きな街の組長だった
でも、時の流れは彼を必要とはしなかった
彼こそ本来の極道者だった
ボクは彼の横顔を見ながら思い出す
揉め事があれば
「この喧嘩、あんたが勝つ喧嘩じゃない。むしろ勝っちゃいけない喧嘩だ」
と、見事な仲裁をした
「相手を責める時には、そっと通れるだけの道は開けてあげなさい」
「正しきをもって退かず、自分に正義があれば信念を曲げなさんなよ」
ちっぽけな権力で、人の道を踏み外す輩だらけの世の中に
本当はこのY田親分は必要な人間だった
人の道か…
ひん曲がった世間の常道は嫌だな
ボクはあなたのような極道が好きだよ
どうせボクも外道を歩いているんだもの
任侠 人を制す
金や権力で人を制するのではなく、義の心で人を制する
任侠とは弱者を、身体を張って守る自己犠牲の精神だよね
そんな男気のある奴が少なくなっちまったね
Y田親分は、ボクを見つめてコーヒーをすすっている
せつなそうな優しいまなざしで…
(このY田親分は、短歌や詩を書く粋人だった。今は渡世をはずれて静かに時を過ごしていると、風の噂に聞いている。ボクは任侠こそ日本男子が受け継いだ伝統文化だと思っている。その精神だけでも継承していきたいな。義を見てせざるは勇無きなり)