思い詰めた顔つきの男がひとり
寒風吹きすさぶ断崖絶壁にたたずむ
地底から湧き上がる炎のように
荒れ狂う海の飛沫が襲いかかる
虚空を凝視するあの横顔
そうだ彼はロシア人のキリーロフじゃないか
キリーロフだ
まだ会ったこともないがキリーロフだ
ドストエフスキーの「悪霊」の主人公だ
キリーロフは絶えず自由を求め
自由に徹底的にこだわり
自由と言う観念に縛られた男が
死だけは自分の自由にならなかった
人間は自由でなければならない
自由であるためには強制されてはならない
しかし、死だけは回避することができない
死だけは勝手な時に勝手な方法でやってくる
だから彼は死に対して、自分の意志の力を見せつける為に
自殺してみせたのだ
しかしそれは違う
彼は自由と言う名の甘い思想に
自殺させられたにすぎなかった
死に自由などはない
武士の切腹だって処刑に過ぎないのだ
最近の若者の理想主義を危ういと思う
夢見る時代の後には必ず幻滅の時代がくる
そんなことで、自らの自由を放棄することはない
(負けて重荷を下ろすと言う方法論は間違っている。それは責任からの逃避にすぎない。自由からの逃避だ。年の瀬はなんでこう極論を想い浮かべるんだろうね。早く新年がくればいい(笑))