森林の中のハイウェイ
フォード、ダッジ、マーキュリーが風景を引き裂いて疾走している。ズシンと腹の底に響き渡るエキゾーストノイズ
アメリカのハイウェイは直線が多い
ニュージャージィからハドソン川に架かるブルックリン橋
その先はマンハッタンの超高層ビルの群れ
突然、ボクのカメラアングルがスイッチングされた
今しも、ハドソンに架かる歩行者専用の木造の橋をとぼとぼと歩く老人
あの黒人の 老人はボクの友達
いや、師匠でもあるのだ
マンハッタンのピア近くにある地下の小さなボクシングジム
老人はそこへ向かっている。
彼はボクサーなのだ
あのとぼとぼ歩く老人が、リングに上がると、一瞬で獰猛な黒豹になる
不敵な面構え
野牛のような突進
蒸気機関車のような連打
ボクはこの老人の背中を追ってボクシングを始めた
リング上のボクサーは決して獰猛な野獣ではない
内心は殴り倒されるかもしれない不安、緊張、孤独、そんなネガティブな悪霊に襲われ、恐怖の自問自答をしているのだ。
だから、ボクシングの面白さとは何だと聞かれたら
一人で背負う恐怖心との闘いとこたえるだろう。
あの老人もボクも
(このマンハッタンの黒人の老人は、たまに夢に登場してくれる。20数年前マンハッタンで実際にお会いした老人だ。そして彼の影響でボクもボクシングを始めた。今のボクは、その老人の年齢になった。)