一面に立ち込めた朝もや…
砂浜に引き揚げられていた木造の漁船が、地曳網を下すのだろう、沖へ出て行った。
弓のように、きれいな弧を描く鵠沼の海・・・
右手には小田原から真鶴へと続く伊豆半島、そして残雪の消えた富士山。
左手には、ボクの遊び場である江の島の西浦。
脚元の砂山には、夜中に芳香を放っていた浜木綿の花の残り香が甘い。
すっかり、ボクの初夏の海だ。
誰にも邪魔されないボクの故郷だ。
気が付くと、ボクはテンガロンのストローハットをかぶっている。
これ、高校生の時にお気に入りだったのだ。
そうだ、砂防林の低い松林の横の砂山に、あの日、ボクは宝物を埋めた。
この地元の少年がやる、大人になる為の儀式だ。
掘ってみようかな。
両手で砂を掘る、砂をかき出す。
でも、宝物は出て来ない。
ビニールのごみやシケモクばかりだ。
コンドームまで出てきて、うんざりした。
ボクは汚れた手、いや心を洗う為に波打ち際へ行った。
寄せた潮が引いて行く時に、砂地にポコポコと小さな穴が開いて、空気が漏れる。
急いで、そこを掘ると、やっぱり小さな潮吹き貝がいた。
どでかいハマグリまでいた。
変わってないな、この海は・・・。
沖を見ると、波を切って進む背びれが見えた。
サメだ!
ボクは嬉しくなって、海にザブザブ入って行った。
背びれは見えなくなったが、ボクはこのままずっと沖まで泳いで行こうと決めた。
なんだか楽しくて歌を唄いながら泳いで行った。
美空ひばりの東京キッドだった。
(なんだか短編小説みたいな夢だったなぁ。我ながら良くまとまっていると自画自賛。高校生の時、砂山に埋めた宝物は、ジャックナイフだった。それは今でも何処かで錆びついているだろう。サメは小学生の頃、生きた奴を捕まえて、家に持ち帰り風呂桶で飼おうとして、親にひどく怒られたことがあったなぁ)