降りしきる雨の微かな音が頭上に心地よく聞こえる。
ギターのトレモロのような響きだ。
ボクは今、海中を探索中なのだ。。
ここはボクの大好きなダイビングスポットのひとつ、千葉県館山湾の南側にある沖の島だ。
海底の岩の形でそれと分かる。
お気に入りの水中銃(マンディアル・コンペティション1000)を構えて水深3メートル程の海底で、50センチの舌ヒラメを仕留め、岩陰に隠れていた2キロの黒鯛もゲットした。
次は真鯛か、すずきのメーター級の大物を狙おうと、ボクの穴場であるポイントへ潜って行った。
若布が密集する水深5メートルの岩棚は、ヌメヌメしてなんだか気持が悪い。
この先が10メートル程の断崖になっていて、その海底近くに大物がいるのだ。
やっと、海中の断崖の縁にたどり着いた。
ボクは一旦浮上して、スノーケルで新鮮な空気をたらふく吸い込んだ。
雨の匂いが混ざっていた。
そして、海底に向かって一気にフィンを蹴りまくった。
ウエットスーツとウエイトのバランスもばっちりだから、海底には10秒もすれば到達するだろう。
しかし、いくら潜っても潜っても海底が見えて来ない。
海水の色だけが、ライトブルーからグランブルーに変わったが・・・。
ボクは、ジャック・マイヨールか?
もう、300メートルは来たぞ。
これって、世界記録じゃないのか?
その時だった。
鯨か象のような鳴き声がして、ボクの前に巨大な怪物が現れた。
大きさは5メートル四方・・・
四方と見えたのは、そいつは絨毯の様に横になって泳いでいるのだ。
厚さが1メートルくらいだ。
横になっているから片目しか見えないが、目ん玉がサッカーボール程もある。
その怪物は、事もあろうに、そのデカイ目でボクにウインクしたのだ。
ボクも思わず水中メガネの中で、ウインクを返した。
そう言えば、どこかであったことがある。
どこだろう・・そうだ、思い出した。
ここだ、ここの海だ、この場所だ。
いつだっけ?いつだっけ?
思い出した時には、目が覚めてしまっていた。
(夢の中のデジャブなのだろうか?ボクは40年ほど前、スキンダイブに凝っていたことがある。毎週何処かの海へ潜りに行っていた。でも、水中銃が禁止になってから辞めた。ボクは狩猟が好きだったのだ。夢の怪物のような奴はマンボウだ。あの頃も沖の島で出会っていた。3メートル程だったけれど・・・)