なぜだか、ガラパゴス携帯を見つめている。
アドレス帳をスクロールする。
重たい空気が、心を圧迫して来る。
時々、フッとボクの命令ではなく、ボクの指が勝手に留まる。
それは突然、逝ってしまった親しい人の名前・・・
その人との・・・楽しかった日々が浮かび上がる。
ゴルフで笑い転げたり・・・
大海原で魚釣りをしたり・・・
劇場で音楽ショーを開催したり・・・
テレビの番組を制作したり・・・
ボランティアで雑誌を創ったり・・
旅に出かけたり・・・
兄のように慕ったり・・・
弟分のように可愛がったり・・・
それぞれの映像が、まだ昨日のようにフラッシュバックする。
でも・・・
すでに鬼籍に入られた人々の、アドレスを消去しなければ・・・
その前に、その人々のアドレスに発信してみた。
現実を再確認したかったのだ。
胸が嵐のように荒々しく鼓動する。
「この電話は、現在使われておりません」
「・・・・・・・・・・」
「お客様のご都合により、通話ができなくなっております」
この言葉はせつないなぁ・・・
お客様のご都合・・・
確かにそうなんだけれど・・・
ひとりくらい、電話に出てくれないだろうか・・・
そんな期待も虚しかった。
そして、最後にボクの眼に留まった名前があった。
カワムラシゲル
ボクは震える指で、発信ボタンを押した。
(起床して、すぐにスマホのアドレス帳を見た。夢で見つけたお名前は全て残っていた。確かに消去しなければ・・・とも思うが。消去することで、その方々の魂まで消えてしまいそうで怖い。そのままでいいや。)