江の島の南浦の沖を通り過ぎた。
弁天様の洞窟が見える。
小学生の頃のボクの遊び場だ。
真っ暗な洞窟の中で、よく度胸試しをして遊んだっけ。
今、ヨットでセーリングしているのだが、なぜだかセールを張っていない。
ボクがメーンセールのセッティングを、教えている。
わずかなセールの開きに風を張らんで、ヨットは西に走っている。
と、いうより今日の潮は鹿島潮だから、鎌倉の方から小田原方向に潮が流れている。
その潮に乗って進んでいるだけなのだ。
ボクがセッティングを教えているのは、脚本家連盟事務局の大池君だ。
真面目な青年だから、一生懸命聞いている姿がいじらしい。
その時だ。
船が暗礁に近づいている。
江の島から烏帽子岩の中間に暗礁が二か所ある。
引き潮だと海面下50センチほどの処に岩があって、船は座礁してしまう。
ヨットはキールが深いから、上げ潮でも危険な所だ。
ボクは急いでメーンセールを張り、船のスピードをつけた。
船は間一髪、暗礁の脇をすり抜けた。
振り返ると、クルーのカズトがラットを握ってにっこりしていた。
カズトが操船していれば安心だ。
烏帽子岩に着いた。
ヨットを接岸して、ボクは烏帽子に上った。
ここは高校時代の遊び場だった。
何処に脚を架けて、どのコースで登るか、目を閉じていても分かる。
烏帽子の上の岩の窪みに、ボクは宝物を隠している。
それを見に来たのだった。
宝物はあった。
烏帽子から見る富士山は、もう雪の帽子をかぶっていた。
(なんだか、記念写真のように綺麗な夢だった。ボクの少年時代の遊び場だった江の島と烏帽子岩・・・勿論、当時はあそこまで泳いで行ったのだ。元気な少年だったなぁ。)