ボクは堕落エレベーターに飛び乗った。
その広場には、顔見知りが沢山いたんだ。
仕事関係、プライベート、御近所……
大勢の人々が、手を結びあって網を造っている。
制度とか規則とか習慣とか愛とか、網にはいろいろな札が付いている。
ボクはそんな札が大嫌いだ。
そんなのは、人間らしい欲望の放棄だ。
永遠に、社会制度なんかの網に打尽されない人間でいたい。
これまでも、そうして生きて来たし、そう生きて行く。
社会の中で、堕ちる道を自分で見つけ、堕ちきることによって俺自身を見つける。
人間だから堕落する。
生きているから堕落する。
それでいいじゃないか。
自分の生き方にカッコ着けることはないじゃない。
なんだか。無頼の徒、坂口安吾に囁かれるように、俺は堕落のエレベーターに乗った。
エレベーターの側面は透明で、横断歩道に佇む男が独り見える。
その人は、元ニッポン放送社長の亀渕昭信さんだ。
亀さんも、人の群れから外れて堕落の交差点を渡ろうとしている。
そこに二人の女性が駆け寄った。
道連れの女性たちと戯れながら、楽しそうに亀さんたちが歩いている。
堕落とは、自分自身の欲望の素直な発見の旅だ。
自分を救うのは自分しかいない覚悟で、ボクはエレベーターの閉めるボタンを押した。
堕落行きのエレベーターはなぜか、天空に昇り始めた。
(人間は堕ちる、だからまた昇る。堕落は人間の進歩なのに世間はそれを許さない。
若者はどんどん、堕落してほしい。今、国会議事堂前に集まっている若者たちには、
大いなる堕落をしてほしい。その後に答えは出る。)