アマンドの前だから、六本木の交差点だろう。
信号を待っている所に、スマホに着信。
表示を見ると、なんだか家紋のような印が。
あれっ!もしかして…と電話に出ると、低音の妙なかすれ声の男である。
森 進一風のもっと荒々しい声だ。
用件を聞くと、あんたの番組でやっていた通販で売っている、ドスを買いたいというのである。
「ドスって?」
「ヤッパや」
ヤッパはやくざ渡世の言葉で刃物の事だが、そんな通販番組はやってない。
「あんた、人間違いじゃないの?」
「兄さんの番組や、調べはついとるけん」
どうやら、相手は本物のやくざらしい。
しかし、ボクには渡世人の友達も多いから、こんなことでは驚かない。
「ドスなんてなぁ・・・」
と言って、思い出した。
「爆笑どっとスタジオ」だ。
ボクがプロデューサーをしているテレビ朝日の番組で、とんねるずを使って通販番組のコントをやったことがある。
確かに、コントだから、やくざ向けにドスを売る内容だった。
このドス持ってりゃ男前!なんて売り口上で。
そのことを電話で説明すると、件の男が怒りだした。
これから、そっちへ行くと言う。
「おー。来るなら来いや、上等や」
ボクは威勢の良い言葉で返しながら、やくざが怖くてプロデューサーが出来るかい!
と、強気だが、内心は来ないでくれと願っていた。
「どう…しようか…」
と、つぶやいて夢が消えた。
(これは実話に近い夢だった。とんねるずが若い頃、コントでドスを売ったことがあり、その時、本当に事務所にやくざらしき男から電話があった。ちなみにドスは、やくざの言葉で刃物のこと。刃物で「おどす」の「どす」である。江戸時代のやくざは「長ドス」を腰に差していた。)