夜。
スーパームーンに照らされた沖には、ウサギの飛び交うのが見える。
低気圧が通過したばかりなので、海鳴りがまだ残っている。
誰もいない海の家。
後姿の男。
それが誰だかは、分かっている。
不死身のマリオ。
でかい交通事故で背骨を折ろうが、刃物で腹を刺されようが、騙されて億の借金をかぶろうが、瓢々と生きた男。
マリオが呟いた。
「もう、いいかい」
水分の多い、生あったかい夜風が、さっと一陣した。
ボクは、その返事を返さぬまま、波打ち際へ歩いた。
波間に浮かぶ、ちぎれた海藻が不図、眼に留まる。
デラシネ…根なし草・・・
そんなラディカルな生き方は、マリオもボクも似ているな。
いつも風とケンカばかりしている人生だ。
「ナチョメンドサ」
ボクが子供の頃から使っている、おまじないの言葉を潮風に呟いてみた。
そして、マリオに大声で叫んだ。
「まぁだだよー!」
振り返ると、マリオの姿も、海の家さえもそこにはなかった。
ボクは大都会の交差点の真ん中に立っていた。
(朋友マリオが、真夏の夜中に自死してから、もう何年たったのだろう。
人の後ろを歩くことが嫌いなチャレンジャーだった。そんな処がボクと似ていて朋友と呼べる奴だった。真夏の蒸し暑い夜には、未だにボクの前に現れるナイスガイだ。)