ここは洞窟の中だろう。
ロウソクの灯りに照らされた岩肌に想い出がある。
岩の窪み、滴る水滴の響、匂い・・・
江の島の弁天様の洞窟だ。
洞窟の奥には、彼岸へ渡る三途の川の波止場がある。
松明が夜空を焦がしている。
今年も、ここで何人かの友を送った。
ボンボヤージュ
束の間の出会いだったけれど、ありがとう。
ボクの為に、自分の時間と言う命を削ってくれて、ありがとう。
ボンボヤージュ
あれっ、渡し船の上にマリオがいる。
お前は彼岸へいってるんじゃないのか?
「船賃の六文銭で、酒飲んじゃって、渡してくれねえからさ、今、船の船頭のバイト中」
マリオはいつもの、悪戯っぽい笑顔を作った。
まだ、借金取りにいじめられているなんて、マリオらしくていい。
「まぁ、俺がその船に乗るまでに、借金返しておけよ。マリオ」
そんな、間にも彼岸へ渡る人々がやってくる。
どの顔もみな、楽しそうだ。
あれっ、シュウさんがいる。
「シュウさん、まだ彼岸へ渡っていなかったの?」
「ええ、ちょっと、今年のリレーフォーライフの準備が忙しくて・・・」
シュウさんは、いつもの上目使いの笑顔で、船に乗り込んでいった。
三途の川の渡し船は、多くの友の笑顔を乗せて、今年の夏も出航していった。
マリオー!
おも舵いっぱーい!
ヨーソロー!
今年も、俺の盆は終わった。
(夏の終わりに素敵な夢だった。あの江の島の洞窟は、ボクが小学生の頃の遊び場で、今よりずっと奥が深かった。今は観光用の洞窟となっているが、昔は、ボクたち地元の子供には神秘的な空間だった。)