銀行のATM
ピシッとダークスーツを着こなした中年の紳士が送金しようとしている。
彼は一度、口座から出金して、更にそれを送金するらしい。
それも100万円以上の金だ。
彼はそれを数えているのだが、手先が不器用なのだ。
札がATM盤面上にバラバラ落ちてしまう。
何度やっても、数えられない。
彼は、次に待っているボクを気にして、余計に焦っている。
何度数えても、数字が合わないようなのだ。
仕舞いには、盤面上に金を散らかしたまま、ボクに・・・
「お先にどうぞ」
と言うのだ。
好漢、惜しむらくは兵法を知らずか・・・
「ボクは急ぎませんので、どうぞ」
と言うボクに、彼は名刺を差し出してきた。
名刺の肩書きは、企業の代表取締役だ。
上手に金を振り込めない社長・・・
なんだか、良い人に思えて来た。
ATMは便利だけれど、こんな事に無駄な時間を費やし、豊かな道草を食うことも大切なんだ。
彼は安心したのか、楽しそうに、何度も何度も送金を失敗している。
(大海ほど、全ての川より低い。「江海の能く百谷の王たるゆえんは、そのよく下るをもってなり・老子」
こんな会社経営者やトップリーダーがいてもいい。
でも、豊かな道草って良い言葉だなぁと自画自賛。
便利とは、発端から結末へ最短で行けること。将に豊かな道草を放棄することなのだ。豊かな道草を食う人生も、また良きかな)