夜道を歩いていると、男の声が聞こえて来た。
何か、叫んでいるようなのだ。
続いて、女性のすすり泣く声も、漏れてくる。
とても悲しいそうな声なのだ。
どうやら、他所の家の中かららしい。
「いつまでも、泣いてるんじゃねー!」
「・・・・・・・・・」
「楽しい事でも、考えたらどうだ!」
「・・・・・・・・・」
多分、旦那さんが、いつまでも悲しみにくれている奥さんに怒っているのだろう。
他人のボクには、関係ないことだが・・・
悲しみを、叱り飛ばす旦那にむかっと来た。
人の悲しみを叱ってはいけない。
理屈で人を咎めてはいけない。
理屈で人を説得できても、感動させることは出来ない。
ボクは歩きながら、そんなことを考えている。
もう、あの家からは大分離れて、二人の声は聞こえない。
でも、あの奥さんのすすり泣く声は、色っぽかったなぁ・・・
まだ、微かに耳に残っている・・・
その消えかかる泣き声の後を、ボクの気持ちが追ってゆく。
なんだか、エロティックな場面が浮かんでくる。
女の気品、幽艶、哀切、風雅、怨情・・・
突然、ボクの目の前が暗闇・・・
それも、暗黒のスクリーンになった。
フィリッピス・ラピスのシュールな裸婦が現れた。
ロングのヘアーがベールのように開花している。
豊かな乳房が波打つように、激情しているのか・・・
しかし、良く見ると彼女の左の胸には、深々と一本の矢が刺さっている。
でも尚、彼女の姿態はエロテックなのだ。
その彼女がすすり泣いている。
一本の矢の快感なのだろうか・・・
ボクは、突然叫んだ。
「いつまでも泣いてるんじゃねーや」
画面が一瞬で真っ白になった。
(なんと、シュールな夢であろうか・・・出だしはホームドラマっぽかったが、
途中からアンニュイなムードになって、フィナーレはコメディになった。
やはり、ボクは台本作家なんだよね。三流のね(笑))