海が荒れ狂っている・・・
凄まじい風が怪物の咆哮のように耳をつんざく。
飛び散る波が顔面にぶち当たる。
船が沈没しようとしている。
ここは、タイタニックの船上のような修羅場・・・
人々は救命ボートで次々に脱出している。
ボートはラストの一艘になった。
ボクは残った人々を乗せる。
そして、最後に飛び乗ろうとした時、もうひとり乗客の男がいることに気がついた。
「お先にどうぞ」
ボクはほほ笑んで、彼を乗せた。
救命ボートは、沈没船から離れて行った。
ボクは傾いた船上で、独りで歌を唄っている。
「海・その愛」
加山雄三じゃんか・・・(笑)
ボクは・・・
「お先にどうぞ」
と、言えた幸せを噛みしめている。
これが、ボクの人生の目標だったからだ。
若い頃は・・・
乗り物や、エレベーターや店先で、人を押しのけたことがある。
若い女性には、レディファーストと言いながら・・・
おばさんには、ババアセカンドとか呟いてたこともあった。
でも今、死と言うものが見える年代になって・・・
人生の幸せを考えた時・・・
究極の幸せは・・・
「死に臨んで、何も悔いがないこと」
だと、気がついた。
権力や地位や金に強欲な奴は、いつも悔いを残している。
それを捨てきれない輩は、悔いの塊のようだもの。
だから、強欲な奴は死ぬまで幸せにはなれない。
気の毒な人たちなのだ。
今のボクは物欲も、やり残したこともない。
きっぱりと言える。
だから、沈んでいく船上も怖くはない。
その上、ボクは水泳が得意だし、いつの間にかライフジャケットも着けている。
ボクは、にっこり笑って大海原に飛び込んで行った!
最後の最後は、自分の体力勝負だ!
(なんだか、カッコ良すぎるが、人生最後の時は、こうありたいな。
「死に臨んでなにも悔いがない」これが本当の幸せ、なんだろうと思う。
それを夢の中で確認できた。)