都会の駅なのだけれど、少し歩いただけで静かな渓谷が現れる。
その谷間には、古い木の橋が架かっている。
川面には、やはりいつものようにシルバーグレーの鎧をまとった鯉が泳いでいる。
涼しい風に甘い香りが混じってボクを誘う。
また来てしまった。
もう、何度ここへ来たのだろう。
橋の向こう側に、あの矢がすりの浴衣の女性が・・・いた。
いつもここでボクを待っているひと。
櫛の美しくとおった長い黒髪
透き通った肌に可憐な紅
長いまつ毛が誘う憂いの瞳
右の頬には、雫の形のアザが一滴
ほほ笑んでいても、泣いているようなひと。
ボクは、彼女に近づき寄り添う
彼女もボクの左肩に身を預ける
二人で川面を見つめる
いつまでも
いつまでも
ボクの左手の指が、彼女の右手の小さな指を求める
彼女の指も又、ボクを求めているに違いない
随分長い間、空中で躊躇していた指が触れあった。
探しあてた
その瞬間、夢はいつものように覚めた。
(夢の中のデジャブー。もう何回このシーンに出会ったかなぁ。同じ情景、同じ
女性との設定、そして結末。もしかしたらフィナーレは夢ではなくリアルの中にあるのかも知れないな。よし、これからはあの渓谷を探す旅をしてみよう。)