コスタエメラルダ…
煌めくエメラルドの海…
おだやかな海面とは裏腹に…
海中では壮絶な死闘が…
美しい人魚がなにか巨大な怪物に下半身を呑みこまれている
彼女の長い髪が海中に乱れ
豊かな白い胸が恐ろしさに震えている
その怪物は大きなイソギンチャクの様でもあり…
海底から現れた海蛇の様でもある
どこかで見たな…そんな気がした
見るもおどろおどろしい地獄の光景だ
その時である
ポセイドンほどの逞しさはないが、ひとりの男が現れた
老人であった
彼は若々しく整った逞しい腕を天空に差し延ばした
堂々たる老人の立ち姿…
その無尽蔵のエナジーに海の水さえ消えてしまった
老人は閉じた眼を徐々に開いていく
鋭い切れ長の眼に光輝の瞳が現れ、静かに辺りにそそがれた
気合いと共に打ち下ろした腕に
破壊の憎しみと創造の喜びが絶叫している
「人間は生身だから、そうむざむざと石ころにはならぬ」
その声は悪魔か善神か…
見分け難いほどの逸脱した狂気
仮死から醒めた美しい人魚は、自由な歓喜のなかにある
自分の命を自分の掌の中に収め
エメラルドブルーの深淵に消えて行った
(寝る前に近代文学 百年の顔という雑誌を見ていた。この光景は目覚めてすぐ分かった。谷崎潤一郎の「人間の嘆き 魔術師」の初版の口絵だ。
地獄絵のような恐ろしい口絵だった。寝る前に見るものじゃなかったかな(笑))