冬の入日の中に茜色の蜻蛉が立つ
ありやなしやと、ただほのかに
ここはどこだろう
ボクは何処にいるのか
「汚れちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れちまった悲しみは
今日も風さへ吹きすぎる」
中原中也を口ずさみながら
怒りの人々が行き過ぎる
悲しみがあふれている街かど
美味しいケーキでも入っていそうな箱が落ちている
指で押すと腐った水が滲み出てきた
それは箱を装ったスポンジの塊り
押せば押すほど飛び出してくる、にごり水
スポンジの中には雑魚が一匹
雑魚は頭から腐るもの…
早く頭を落とさなければ、全てが腐るぞ
行き交う人々の心の悲しみは手に余る
幾時代かがありまして
茶色い戦争がありました
幾時代かがありまして
冬は疾風吹きました
頭逆さに手を垂れて
屋外は真っ闇 闇の闇
夜はこうこうと更けまする
再び、中原中也がばらばらと浮かんできた
冬の夜だなぁ
(誰でも心の中に、悲しみのひとつやふたつはある。でも、それが手に余るほどの悲しみになった時はせつない。腐った塊りによってもたらされた圧倒的な理不尽は排除しなければならない。冬の夜は中原中也が似合う。)