突然、シーンは旅番組の撮影現場。
旅館の和室の窓から、鏡面のように静かな湖。
乙女の像が見えるから、十和田湖だ。
ディレクターのマキオさんが、カメラマンとカットの打ち合わせをしてる。
食事のシーンだ。
お膳に並んだ料理を見て・・・
「十和田の名物料理はどれ?」
と、ボクが聞いた。
ボクがこの旅番組のリポーターなのだ。
「それが、ないんですよ。ヒメマスくらいしか・・・」
宿の若女将が言う。
「当たり前の料理を食べるのは、面白くないな」
と、ボク。
「そうだ、この十和田湖のヒメマスをりんご酢で〆てください。それを林檎の中身をくり抜いて器にしてください・・・そうだ、料理の名前は乙女の滴がいいな」
ボクは、勝手に新しい郷土料理を造ってもらって、撮影した。
「露天風呂入りましょうか」
マキオディレクターが言う。
「いいねー」
ボクは素っ裸で風呂に飛び込んだ。
「あのー、バスタオルを巻かないのですか?」
宿の若女将が叫んだ。
「バスタオル巻いて風呂に入るのは、日本の文化ではありません。第一汚い。」
マキオさんが言った。
「そう、見せちゃいけないところを見せないで写すのが、プロのカメラマンです。それを演出するのがプロの演出家です。」
ボクは、当たり前のことを言った。
ボクとマキオさんとカメラマンの眼が合って、にっこり、ほっこり、良い気分になった。
(わおっ!なつかしい時代のアーカイブ映像の夢だ。そう、実を言うとボクはテレビ東京(当時は東京12チャンネルテレビ)の初代の旅番組レポーターなのです。まだ、ハンディVTRカメラなどない時代。16ミリフィルムで撮影していました。でも、ボクは不味いものは不味い。美しくないものは汚いと、はっきり言うレポーターでした。ディレクターのマキオさんは既に他界されています。夢でお会いできて嬉しかったなぁ。)