今夜も、そのバスは停まっていた。
波音が微かに聞こえるシーサイドハイウェイ・・・
13夜の月明かりに浮かび上がるブルーの車体・・・
制服-制帽を凛々しく纏った運転手が、ほほ笑みながら乗客を待っている。
そのバスは、毎晩ここに来る。
ここにきて、じっとしながら乗客を待っている。
たったひとりの乗客を・・・
そうなんだ。
そのバスは、毎日ひとりのお客しか乗せない。
ひとり乗せるとドアーを閉めて走りだす。
闇の中に消えて行く。
ヘッドライトが空に見えるから、夜空を飛んで行くのだろう。
何処へ行くのだろうか・・・
乗ってみたいと、毎晩思う・・・
けれど・・・
宮沢賢治の描いた理想郷・・・
イーハトーブではなさそうだ。
ボクは、今夜もそのバスに乗ることに躊躇した。
ボクが消えて悦ぶ者に、バスの乗車券を貰いたくはない。
ボクと言う個体がバスに乗ることを決めるのは、人間ではない。
自然が決めることだ。
人間が手を出せない自然界にこそ、仕分け選別のシステムがあるのだから・・・
昨日もひとり・・・
今日もひとり・・・
明日もひとり・・・
過去から逃げて来た人がやってくる。
あのバスに乗る人が来る。
そしてボクは、いつだってそのバスを見送っている。
(なんだか観念的な夢物語だけれど、過去から逃げてくる人々が乗るバスは何処かにあるような気がする。夢の銀河鉄道のように理想郷を目指すのなら良いと思うが。
闇の中に消えるだけのバスだったら、チケットを破り捨てたほうが良い。)