大好きな鯛釣りに海に出ている。
鳥瞰で見ている大海原。
ボクの乗っている釣り舟は、フェリーボートのような形をしている双胴船である。
ボクは、一番好きな船のポジションである、右舷の艫に座って、手ばねのしゃくり竿で釣っている。
釣り餌も、生きの良いサイマキを使っているので、期待していたのだが、鯛の当たりは一回もなかった。
鯛釣りにボーズはつきものだから、潔くあきらめて、マスターの店に寄った。
マスターはスラリと背が高く、俳優にしたいような苦みばしった男である。
マスターと呼ぶのは、従業員の皆さんで、ボクは愛ちゃんと呼んでいる。
名前が愛之輔と言うのだ。
年齢はボクより上だか下だか分からない。
二人で年齢の話などしたことが無いのだ。
愛ちゃんは、伊豆の早川で釣り具屋をやっている。
でも、これは趣味が高じた副業で、本職は葬儀屋さんである。
愛ちゃんの店に入ると、壁に新しい鯛の魚拓が10枚ほど張ってある。
愛ちゃんが、ボクを待っていてくれた。
ボクが釣れなかったという情報を、すでに漁師から無線で聞いたのだろう、ボクにお土産にイナダとイカをくれた。
これが愛ちゃんの心遣いなのだ。
愛ちゃんは口は悪いけれど、いつもボクに、とてもよくしてくれる。
この店の常連の釣り師たちも、優しい奴らばかりだ。
釣り談議に花が咲く。
「俺は相模湾じゃ釣りの腕前は、誰にも負けねえや」
が、口癖の隠居の爺さんも居る。
みんなで、火鉢の火でイカを焙りながら、笑いっぱなしである。
そのシーンが引きの構図になっている。
良い場面だなぁ、などと思っていたら目が覚めたようだ。
(大好きな釣り、会いたかった愛ちゃん。夢と言うより、現実に近い場面だった。
なんだか、とっても得をしたような朝である。
愛ちゃんは釣りも名人技だけど、ゴルフもシングルだ。どうしているかなぁ。
電話してみよう)