夜道を歩いていると、ボクに寄り添って来るものがいる。
「こんばんは」
彼女は、ボクの足元でそっと囁いた。
「久しぶりだね。元気だったかい」
ボクは、彼女をそっと拾い上げて、手のひらに乗せた。
「ねぇ、幸せになりたいんだけれど・・・」
彼女は、褐色の光沢のある裸身を見せつけるように光らせて、呟いた。
「それはさ、君が幸せな気持ちを持てばいいんだよ。」
「ふーん・・・」
「自分の心を決めるのは、自分だけなんだから・・・」
「そうか、分かった。ありがとう」
彼女はうれしそうに、ボクの手の平から暗闇の中に、飛び立って行った。
ボクの、その彼女はゴキブリちゃん。
地球上の生物の中で、もっとも進化しない生きものだ。
2億5000万年も生きている。
この間、全く進化しないから生き続けている。
ボクたち人類は、ネアンデルタール人からでも、わずか20万年なのだ。
ホモサピエンスなんて、たかだかそんなものなのだ。
そして、とんでもない進化を続けている。
ダーウィンの進化論はなんなのだろう?
進化することは、良いことなのだろうか?
ゴキブリから見れば、ボクたち人類なんて地球上に束の間、現れ束の間に滅びていく
生物にすぎないのだろう。
「また。逢いたいね」
ボクは闇の中に呟いた。
(ボクは、ゴキブリを殺したことがない。子供の頃、ゴキブリこそ地球上に最も長く生存している生物だと本で読んだからだ。ゴキブリは視覚、聴覚、嗅覚、触覚よりも味覚が発達している。だから、どんな条件下でも食物を探しあてるから餓死しないのだ。それを人間はゴキブリホイ・・・なんとかなどで騙している。卑怯である!)