いきなりブルックリン・ブリッジの上にいるのだった。
ダンボからつり橋にかけられた木の歩道を歩いてきた。
マンハッタンの高層ビル群に明りが灯り始めている。
ボクが最も好きなニューヨークの風景だ。
ボクは橋の上で、独りの黒人の老人を探した。
いない。
もう間もなく1800メートル程のブルックリン橋を渡り切れば、ダウンタウンだ。
早く見つけなければいけない。
ボクはその老人に会いに来たのだから。
でも、老人はいなかった。
がっかりして、リバーズカフェで夜風に当たっている。
と、あの小さな黒人の老人が、ブルックリン橋を歩いているではないか。
背中を丸めて、とぼとぼと・・・
嬉しかった。
ボクは老人に向かって走った。
けれど、見失ってしまった。
そうだ、ウエストヴィレッジへ行けばいいのだ。
ボクはジャズが流れる中、すり寄るゲイたちを突き飛ばして走った。
マフィアのような男たちも蹴散らした。
そして、地下へ続く階段へ飛び込んだ。
むっと咽かえる熱気、汗の体臭、規則正しく激しい呼吸の音。
ボクの大好きな空間。
ボクシングジムだ。
マイク・タイソンは何処?
モハメド・アリは?
ロッキー・マルシアーノは?
ジョー・フレージャーがいた。
それなら、ジョージ・フォアマンもいるに違いない。
ボクの頭の中は、もうドリームランドだ。
その時である。
ロッカールームから出て来た、小柄な黒人ボクサーがシャドーを始めた。
あの老人だ。
構えはサウスポーだ。
右のジャブから左ストレート、更に畳みかけての右フックのダブルから左のボディ。
やったぁ。
ボクの得意のパンチパターンだ。
ボクは、これが夢なら覚めてほしくないと、思った瞬間に覚めてしまった。
でも、幸せな朝だ。
(実は、この設定の夢は、今までにも見た事がある。ボクは寝るときに空想をするのが好きなのだが、このNYでのボクシングは、あこがれなので空想の定番だ。
でも、NYのボクシングは見果てぬ夢ではなく、実現させたい夢なのである。)