湘南道路を渡って、いつもの砂浜に来た。
春のような暖かな昼下がり・・・
左手には江の島がどっしりと・・・
右手には烏帽子岩がひょっこりひょうたん島のように浮かんで見える。
ふと前を・・・
そこはボクの定位置の砂山であるが・・・
そこに佇む人の影・・・
逆光で見えにくいが、それは女性だ。
ボクが歩く位置を変えると、はっきりと見えて来た。
和服の女性だ。
呉れ藍色の江戸小紋・・・
帯は緑の洒落袋帯・・・
足元は、なんと色白の素足だ。
つぶし島田の結い髪・・・
みだれ髪のうなじに数本の遅れ毛。
砂山にぽつんと立ちつくす姿に悲哀の風が纏わりつく。
少し悲しげに、上目使いで見る、伊豆半島の霞む山々・・・
山には山の、憂いあり
海には海の、悲しみが
まして心の花園に
咲きしアザミの花ならば・・・
ボクの心に、そんな歌が翔んで来た。
果てしなく長い、運命の糸に翻弄されて・・・
彼女の姿は、いつしか一輪のアザミの花になっていた。
ボクは近づいて、その一輪の花に手を差しのべて・・・
やめた。
美しいものに、無暗に触れてはいけない。
ましてアザミの花ならば・・・
小さな痛い棘がある。
(北国では大雪だというのに、春の夢を見てるとは・・・。ボクの心の花園には、
どんな花が咲いているのだろう。師走だというのに、この能天気なボクである。)