ふと気がつくと、男たちの汗臭い空気が流れている空間だった。
嫌いではない匂いだ。
ぎらぎら獲物を狙う野獣の視線が、稲妻のように鋭角に折れながらボクに突き刺さる。
何かを促しているようだ。
何かを、ボクに要求しているのだ。
束の間、ボクはその場の空気感を理解した。
それは、ボクにリングに上がれという視線なのだ。
そうか・・・
ここはマンハッタンのブルックリン橋のたもとにあるBOXING JIMだ。
ボクはゆっくり両手にバンテージを巻き、8オンスのグローブを着けた。
そして、裸電球に照らされたリング上に視線を向けた。
どこかで見たことのある黒人のボクサーがいる。
フロイド・メイウェザー・ジュニア・・・
WBA・WBC世界スーパーウエルター級チャンピオンほか5階級制覇・・・
47戦47勝 26KO
剃りあげたスキンヘッド
精悍な豹のような目つきで、彼はボクをリングに迎えた。
リングに上がったボクは、スタンディングのままマウスピースをくわえた。
そうか、ボクはメイウェザーのスパーリングの相手なのか・・・
ボクは単なる打たれて倒れるだけの咬ませ犬なのだ。
リングの周囲にはマフィアのような狡猾な男たち・・・
倒されてたまるもんか・・・
久しぶりに、ボクに凶暴な闘志が湧き上がるのを感じた。
嬉しかった。
まだ、ボクは闘いを忘れてなかった。
闘争本能は健在だった。
ボクはクラウチングスタイルをとる、メイウェザーに焦点を当てた。
そして、にっこり笑ってリングの中央にステップした。
ボクに本来の野獣の微笑みがもどった。
耳の奥で、戦闘のゴングが聞こえた。
(目覚めて、嬉しかった。久々の汗臭い空間。ボクシングのリング・・・。ボクは高校でボクシング部だった。当時はスリムなバンタム級。今じゃ貫禄のミドル級(笑)
でも、ボクの仕事のエネルギーは闘争心であることを再確認出来た夢だった。)