その少年は、板塀によじ登って外の道を見つめるのが日課だった。
午後になると、決まって近所の子供たちがかくれんぼや、鬼ごっこや始める。
少年はやったことはないけれど、ルールは分かるつもりだ。
だって、毎日見ているから…
少し大きな子供たちは、自転車の三角乗りを得意げにやっている。
少年はその姿に憧れた。
いつの日か自転車に乗りたかった。
その少年は無口だった。
だから、思ったことを口に出せない。
少年はひ弱だった。
結核だったのだ。
毎週のように、ペニシリン注射を尻に打たれていた。
でも、泣かなかった。
少年には、もう涙はなかった。
毎日が寂しくて、悲しい事だらけだったから…
少年はいつも、ランニングシャツに半ズボン
左手をなぜだか股間にあてるポーズが好きだった。
少年が板塀の上からボクにはにかむように笑った。
その少年はボクだった。
遠い遠い夏の昼下がり・・・
(小学生前の自分を思い出す時、いつも浮かぶ情景だ。自転車の三角乗り。
まだ子供用の自転車などなかった。子供たちは大人の自転車の三角のフレームに片足をいれて立ちこぎをしていた。それが子供心にカッコ良かった!
ボクは結核で小学校も休むことが多かった。運動会の経験はない。
中学になって親に偽って野球部に入った。生きてみせる!生き抜いてやると自分に誓った、あの頃・・・)