最終ラウンドのゴングが冷酷に響いた
ボクは赤コーナーのチャンピオンを見つめる
勝てる
そう確信した
奴にはもはや3分間リングに立ち続けるスタミナがない
あるのは、ボクを打ち倒すであろう、ただ一発の必殺右ストレート
これをダッキングで交わして、すかさず…
右フックのボディから左のストレートを顎にぶち込めばいい
これで奴の動きは完全にとまる
あとは奴が倒れるまで、左右フックの上下の連打だ
呼吸も出来ないほど殴り続ける
死んでも仕方がない
倒れなければ殺す
だって、8ラウンドまでボクは殺されそうなほど殴られた
奴の目に殺意を感じた
奴はうっすら笑っていた
でも、ボクは倒されなかった
さぁ、いくぜ、チャンピオン!
ボクは猛然と飛びかかっていった
(ボクシングは、ケンカであり小さな戦争だ。リングに上がれば死の恐怖がある。
相手を倒さなければ倒される。殺さなければ殺される。
だから相手が死んでも構わないと思って殴る。
ボクサーは相手が倒れることに喜びを感じる。相手を殴り続けることに快感を覚える。
涙や理性や同情とは無関係な空間なのだ。シルバーグレイのあの空間はスポーツだからと軽々にくくる評論家には分からないだろう。)