虚ろな心に目がふたつあいている
こんなよい月をひとりで見てねる
孤高の俳人 尾崎放哉の句が浮かんでくる
男のたたずまいである
冷気を滴らせた木枯らしが頬に痛い夜
男はなぜに女を想う
心に腕を突っ込んで魂を
鷲づかみしてもわからないだろう
男のたぎる情念は自身でも語れないのだ
虚ろな心に目がふたつあいているだけなのだ
男が心から愛する女は傾城の妖麗
あの玄宗皇帝が傾国の美女 楊貴妃と交わした愛情物語
二人の愛の悲劇が浮かんでくる
「長恨歌」 白居易の叙事詩
愛し合う人間の感傷を
これほどのすばらしい言葉にした物語を他に知らない
天にあっては 願わくは 比翼の鳥とならん
地にあっては 願わくは 連理の枝とならん
天 地はやがてつきても
私たちの愛はつきることはない
これが二人が交わした愛の言葉
比翼の鳥ってのは
オスとメスの羽の先がくっついて、並んで飛ぶのだ
連理の枝ってのは
二本の幹から出た枝がくっついて、一本になることだ
一国の皇帝と傾国の美女さえ、ここまで言っている
いわんや、ボクはどんな言葉をこしらえようか
物書きには、おもしろいテーマだな
そんな訳で、うつろな心に目がふたつあいている…のだ
(窓の外を見ていたらなぜか、長恨歌の一節が浮かんでは消えていった。さすがに白髪三千丈の国は表現が豊かだ。最近の日本語は言葉までちじこまって面白くないね)