沖合から見ると、半島を飾る紅葉もすでに赤黒く縮んでいる
洋上で釣りをしている
醸し釣りで青モノを狙っているが、この魚信はなんだかおかしい
5ヒロの針素を手にすると、かなり下へ下へと引き込む
これは鯛特有の引きだ
やがてタモ網で掬った魚は、4キロはある精悍な顔をした黒鯛だ
ボクは野締めにしようと、そいつの急所にナイフを向けた
その時だ
そいつはボクを凝視しながら呟いた
「神秘的半獣主義!」
ボクはそいつを海に放り投げた
ボクの前に、神秘的半獣主義という言葉だけが残った
神秘的半獣主義か…
明治文学の自然主義作家の中の異端児的思想だけれど、面白い
昨今の、流行小説ばかりの文学界では作家に思想など感じないが
確かにこの神秘的半獣主義は、ボクに合っているかも知れないな
田山花袋のように、心の深いつながりばかりを追っても、この時代には合わないし
ボクは、静まり返った海面を見つめながら、書くべき言葉を探している
(昨夜、ナイトキャップに田山花袋の「蒲団」を乱読した。男女の繋がりは魂の深い所まで立ち入らなければ…真の愛はないとか…確かに生ぬるい。嫌われ者の岩野泡鳴が言いだした神秘的半獣主義…なんだかいいね。)